あなたは言う。
「もう少しなんだよ」
でもわたしからすればそんなことどうだっていい。うまくいこうがいくまいが、たいして違いはないのだから。
それでもあなたは言う。
「あとちょっとなんだよ」
あなたはどこか遠くを見ていてそばにいるわたしを見ようともしない。
それは少なからず寂しいこと。
ねえ、どこを見ているの?ちゃんとこっちを見てよ。
わたしたち、戦わなくちゃ。
彼女は言う。
「ここにいるんだよ」
君を悲しませたりはしないと、そんなこと誓わずとも信じてくれていた。
さらに彼女は言う。
「ちゃんといるからね」
君はしっかりと前を向いて生きている。それはとても素晴らしいことだし魅力的でさえある。
吹きすぎる風が通り過ぎていく。
もう少しで僕たちは幸せになれる。――誓うよ。
僕たちは、戦わないと。
失ったものをノートに羅列していくとあらゆる人が僕を通り過ぎていっていた。
計り知れないほど。
すべてを取り戻すことはできないけれどこれから勝ち得ていくことはできる。
だから、もう少しなんだよ。
そう思って生きている。
あなたは言う。
「もう少しなんだよ」
これからの幸せなんてわたしたちには関係ない。少なくともいまだって不幸ではない。
でもあなたは言う。
「あとちょっとなんだよ」
この幸福が幻想だと言うのならわたしたちは間違っていた。それでもいい。嬉しい。
ねえ、ちゃんとこっちを見てよ。
手を取って一緒に戦いましょう。
そうやって、あなたはわたしから通り過ぎていく。
振り返れば人影はなく茫洋とした過去がただそこにあるだけ。
前を見れば愛の名を借りたなにかが手招きしている。
その場に崩れ落ちると誰かが嗤う。
またいつか立ち上がって戦えるだろうと甘いことを考えていた。
彼女は言う。
「うまくいこうがいくまいが、わたしたちには違いはないんだから」
僕は言う。
「もう少しで幸せになれるんだ」
彼女もまた、通り過ぎていく。
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