「真理が女だとすると――どうだろう?」
なんてどっかの酔狂な野郎がほざいていたが、おれからすれば真理なんてドーナツのように真ん中が無くて、女なんてすべからく大嘘つきなんだから、結局のところ見えないままわからないってもんだ。
そのとき、おれは夢を見ていたのかもしれない。
窓からそそぐ陽の光が鬱陶しくて、そんな理由で人が殺せるのも、わからなくはないななんて思っていた。
神に接吻するのはゴメンだが、バッカスに限ってなら考えてみてもいいと、口に出してみた。バカバカしくなってカナディアンクラブをラッパ飲みした。ボトルを置いてゲップをした。ちょっと胃液がこみ上げてきた。バッファロー’66を観ていたのをそこで思い出した。
最悪だ、とおれはまた口に出した。
「なにが」
なにがって、全部がだよ。
「そんなこと、わかりきったことじゃない」
あんた誰だ。
「それはあなたが一番よく知っている」
部屋にはおれだけしかいない。でもおれは確実に誰かと会話をしている。クスクスと笑う声が聞こえた。なにがおかしいんだよ。
「全部が、よ」
ふざけんじゃねえ!!
その声は確かにおれがよく知っている人の声だった。だが、もう昔のことだし、忘れた。忘れようとしていた。なんにしても二度と聞きたくない声だった。
昔のことなんて、とっくにそこへ捨ててきたし、もうなにも得るまいと、おれはマイナス200度の情熱だけを持って生きてきた。そんな腐った魂なら、メフィストフェレスにでもタダでくれてやろうかなんて思ったこともある。――もしかしたら、この声こそがおれのメフィストフェレスなのかもしれない。小さな笑い声がまた聞こえてきた。
流れっぱなしの映画。何回観たことだろう。おれはボウリングが嫌いだ。観るたびにそう思う。いまもそうだ。
「ずいぶん冷めた目をしてるのね」
おかげさまでな。
「わたしのせいって言いたいの?」
そうは言わない。誰かのせいなんかじゃないし、もしそうだったとしてもそれを許すのが男ってもんだろう。
「情熱的なのね」
あるいはね。
「ねえ、いつになったら飲むのをやめるの?」
死ぬときか、あとはもう一度恋をしたときか。まあ、酒は身体にいいからな。なんせ飲むと手の震えが止まるんだ。
「バカみたい」
だろうね。
気がつくとおれは笑っていた。そのことに我ながら驚いた。笑っているうちに涙が出てきて、おれはそのまま突っ伏して泣いた。なんで泣いているのか、それはわからなかった。でも、とにかく、痛いのと痒いのとくすぐったいのが一緒に、それも強烈に襲ってきたような感じがして、おれは耐えることができなかった。
気がついたのは朝で、それは紛れもなく朝だった。窓の外を見て朝だと確認すると、おれはまた眠った。