あなたに宛てたこの手紙
風でなびいたその黒髪
花びらが
ぽつり ぽつり
散りゆく中で
私は手紙を埋めてます
桜の木の下に埋めてます
あなたの長い髪を思い浮かべながら
満開の桜の木の下で
これから先のことが思いやられ
涙が
ぽつり ぽつり
落ちていくなかで
私は手紙を埋めてます
約束を交わした場所に埋めてます
いまはもうない未来を思い浮かべながら
狂い咲く 桜よ桜 おれの胸に 舞い込んでこい 死なばもろとも
あの日交わした約束の果て
破ることになるのだどうせ
思い出が
ぽつり ぽつり
崩れていくなかで
私は手紙を埋めてます
あなたならわかる場所に埋めてます
すでに捨ててきた過去には目もくれず
満開の桜の木の下で
満開の桜の木の下で……
(――だがしかし君にできるのか?)
なんのことだ
(とぼけるんじゃない
あの日の約束さえも振り払って君にできるのかと訊いているのだ)
だからこうしてやっているではないか
(は、は、は、君……オママゴトが好きなようだな)
それがどうしたというのだ
(それが君の人生なんだよ、君の、ね)
俺の人生?
(そうさ。いつだってなにをしたって、ごっこ遊びなのさ。なにも本気でやってはいない)
そんなこと……
(――ない、とでも言うつもりか?)
そんなことは……
(――ふむ、そうさ君は、君は、君の心は……もうなにもない
だからいまの君はゆりかごに揺られている赤子同然だ!
生と死、善と悪、夢とまこと……それらにゆやーんゆよーんと揺られている赤子なんだ!)
赤子同然……
赤子……
満開の桜の木の下で
満開の桜の木の下で……
あなたに宛てたこの手紙
風でなびいたその黒髪
花びらが
ぽつり ぽつり
散りゆく中で
私は手紙を埋めてます
桜の木の下に埋めてます
あなたの長い髪を思い浮かべながら
満開の桜の木の下で
過去も現在も未来も嫌で
花びらが
ぽつり ぽつり
散りゆく中で
私は狂い歌をうたってます
桜の木の下でうたってます
あなたの涙をうたってます
私の涙をうたってます
あなたの無垢な微笑みを思い浮かべながら
満開の桜の木の下で
約束を交わした木の下で
それが最後の歌だから
それがお別れなのだから