――君は神を俎上に置くことはできない。それは自分自身でもわかっているだろう。だからこそ、君は自分自身を俎上に置くことでやりくりしている。悪魔を優秀な弁護人として雇い入れ、いくつもの小さな勝利を重ねてきた。
は、は、は!しかし今回ばかりはどうだ?その優秀な弁護人とやらも酔いつぶれているようじゃないか!さあ、いつものような雄弁術を見せておくれよ!
……そうさ、君は彼の弱点を見抜いていた。だから君は自分から避けていたのだ。こうなることのないようにね!しかしこの世の中に絶対ということは絶対にないのだよ。春の到来に君は飢えて死ぬのさ。それを逃れる手立てはあるが、君はそれを拒否しようとしている!
傍聴席には誰もいないぞ!残念ながら君の望む人は来ていないよ。ここには私と君しかいない。君は私の目を見ていればいい。
――君は詩人になった。そしてそのときに君の優秀な弁護人は酒を飲んでいた。まったく、使えねえ奴だ!しかしその後、君も一緒になって酒を飲んだ。酔いどれ詩人になにが語れるというんだ!?しかも君のようなアマチュアが、酒を飲んで書いたものになんてなんの価値もない!
へ、へ、へ!泣きたいよなあ!泣きたいだろうよ!しかし涙は出ない。君はなにも失っていないんだからね。そもそもなにも得ていないんだから、なぜ涙が出ると言えるだろう?期待していたのか?期待。君が一番忌み嫌っていたことじゃないか。そんなものは陶酔的熱病だと。マラリアにかかるとわかっていながらジャングルに入るバカがいるか?君がそれだ。愛は幻想だともう一度言ってみろよ!
しかしそんな君でも期待ができたというのは悲しいかな、喜ばしいことだろう。期待するにはそれなりの根拠があったのだろう。その根拠となるもの、期待した動機を考えると、いささか誤謬があるように思えるが。
……そもそもが君から与えたいと思ったことが始まりだろう。それならば与え続ければいいさ。相手が受け取ってくれる限り。でも君は期待した。ギブアンドテイクを求めたのだ!勝手な話じゃないか!?二束三文にもならないものと引き換えになにを要求した?わらしべ長者にでもなるつもりだったのか?いや、もっといえばこんな話は殴ってやるから金を払えよと言っているようなものじゃないか?
なにも君に限った話ではないが、ここでは君に限った話をする。これは君の問題なのだから!
君の理想はなんだ?相手の幸せ?笑っていてくれること?楽しんでくれること?まあ、なんでもいいさ。とにかくそこに自分自身はいないわけだ。ならばなぜ、君は君の幸せを同時に望んだ?は、は、は!君が高らかに論じた恋愛論とやらが指摘していたことに、――つまり君は自ら進んでドン・キホーテになったのだよ!
それでもいい?いや、よくはないだろう。君はだからここにいる。
よくはないが、来た道を戻ることはできない。そう、だから君は君の理想を求めた。と同時に相手にはただひとつのものを求めた。――自分に正直になるということを。たとえそれが君の望むものではないにしろ、それは君の理想とは関係のないものなのだから、君は君で、君の思うように、好きにやればいいさ!
それが君の答えなのだろう!?そうさ、君は過去にも他人に同じものを求めてきた。そしてそれらはことごとく君の望むものではなかった。しかしそれこそが君が求めていたものだったのだ。
ああ!しかし君はまだ嘘をついているな!私の目はごまかせないぞ!君はそれを最後まで隠し通すつもりだったのか!そんなことは断じて許されない!
君の理想とやら……素晴らしい理想じゃないか!なあ!それが本当ならば、だが。そうさ、こんなものは所詮ハリボテさ。君はそのハリボテの影に、背を丸めて隠れている惨めな人間なのだよ!燃やしてしまおうか?松明を持って来い!
さあ、どうする?君にもう隠れるところはないぞ!醜い、汚らわしい虫ケラめ!一緒に燃やしてやろうか!?
は、は、は!君はとんだ道化師だ!他人の仮面を取り上げて、自分はせっせと新しい仮面を作っている!正直さを求めていながら相手を欺き続けてきたのだ!徹底的に欺くことができればそれは真実になる。しかし、ここでそれも綻んだ!
君は欺くことで本当に欲しいものを手に入れようとした。なんと罪深き道化師だろう!
その最後の仮面も取りたまえ!君はかつて君の優秀な弁護人にその仮面を与えられた。しかしそれももうここでは通用しない。
偽善者!それこそが君にふさわしい言葉だ!
君は道化を演じることで人間たちに最後の求愛をしていた。横目でチラと君を見て通り過ぎる。君は人々が落とした小銭をかき集める。あまりに惨めじゃないか?
罪深き人間!惨めな人間!それが君だ!
……しかし判決を下すのは私ではない。本当なら死刑にしてやりたいが、私にはそれができない!帰れ!二度とその汚れた面を見せるな!
とはいえ君もずいぶんとマスターベーションが上手くなったなあ!!